ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純の頬についた涙の跡を自分の人差し指でなぞり、しのぶは無理矢理微笑んで見せる。

純は何も言わずにしのぶに口付をする。暖かい筈のしのぶの唇が氷の様に冷たく感じた。それは錯覚以外の何者で無いのだが、何もしてやれない自分が、歯がゆくて苛立たしくさと情けなさで涙を止める事が出来なかった。

          ★

「純君……」

開け放たれた部屋のドアをノックしながら茜がひょこんと顔を出した。

「晩御飯、準備しておいたから適当に食べてね」

茜は何時もの様に、ちょっと悪戯っぽい表情で純に向かってそう言った。純は勉強机から部屋の方に振り向いて、済まなそうな表情で茜に向かって礼を言う。

「あ、すみません……あの…」

 茜は相変わらずの笑顔で応える。

「なに?」

「――その、いいんですよ、無理しなくても…」

「あら、別に気にする事は無いのよ、ついでよ、ついで……」

「――そうですか」

「そうよ、ただぼんやり待ってるだけじゃぁ、時間も潰れないしね」
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