フィレンツェの恋人~L'amore vero~
すうすう、寝息が聞こえる。


「眠ったのね」


本当に疲れていたのね、ハル。


私はくすくす、笑った。


ハルを起こしてしまわないように、細心の注意を払いながら。


――東子さん!


帰宅した時のボロボロの姿のハルを思い出して、笑った。


本当は大きな声を出して笑いたかったけれど、我慢した。


起こしては可哀想だから。


ハルが私の肩に頭を乗せて、私もハルに寄り添って。


アルテミスの光を浴びながら、一緒に眠った。


今、ひとつの運命が繋がり始めた事にも気付かずに。


ふたりで、深い深い眠りに落ちて行った。


『夜明けまでにわたくしの名を明らかにできたら、その時は、この命を捧げよう』


あなたは、誰?


ハル。


あなたは、どこから来たの?


『夜明けまでにあの見知らぬ男の名が分かるまで、北京では誰も寝てはならぬ。寝た者はみな斬首の刑とする』


でも、もう、聞かないでおくわ。


調べたりもしない。


『わたくしの名は、カラフ。この命はトゥーランドットの物。どうぞ、好きにして下さい』


ハルは、ツルかもしれない。


ツルの恩返しの、ツル。


『男の名は、愛』


正体を知っていまったら、また、私はひとりになってしまう気がする。


ハルは、きっと、ここから居なくなる。









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