フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ハル?」


分け合う一枚の毛布の中で、ハルが身をねじるように動いた。


起こしてしまった?


「No! 甘いのは嫌だって……言った……」


「やだ、寝言?」


つい、ぷ、と吹き出してしまった。


私に、大嫌いな甘い物を食べさせられる夢でも見ているのかもしれない。


ごめんなさいね、と私は心の中で笑いながら謝った。


ハルは苦痛の表情を浮かべて、うんうん唸っている。


今日が日曜日で、本当に良かった。


会社で美月と顔を合わせずに済むから。


さすがに昨日の今日というのは堪える。


私はハルを起こさないよう細心の注意をはらいながら、そっと毛布を抜け出した。


朝のリビングはひんやりと冷たい空気に包まれていた。


エアコンの暖房を「強」にしてから、真っ直ぐに、キッチンへ向かった。


コーヒーをドリップしながら、私はふと考え込んだ。


確かに、昨晩は気が動転していたのだと思う。


モカの苦い香りが立ち上って来る。


慎二に捨てられ、美月には裏切られた。


だけど、だからと言って、昨晩に私がとった行動は世間一般の常識を外れてしまったのではないか。


無論、あの状況でハルを放って置く事などできなかったけれども。


気が動転し、ヤケになり、無意識の内にとんでもない事をしでかしたのではないだろうか。


キッチンにモカの香りが充満している。


向こうのソファーで眠るハルの髪の毛が朝日を吸収して、キラキラ輝いていた。


「まずいわよね。どう考えても」


まず、ハルは未成年だ。


その未成年を、後先考えずに拾ってしまった。


本来なら、警察に引き渡し、自宅へ帰してあげるべきだったのに。


これは凍死されるどうこうよりもまず、それ以前の問題だはないだろうか。


「誘拐、という事になるのかしら」


どうしよう。


でも、昨晩のハルの様子だと、一泊だけという訳ではなさそうだ。


ハルとは、たくさんの話をした。











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