初恋プーサン*甘いね、唇

「長年想いを寄せる人か、新しい好青年か。これまた、上手い具合にタイミングが重なったもんだね。雛ちゃん、神様に喧嘩売ったってことはないのかい?」


「ふふっ。売ってませんよ」


「だよなあ」


腕組みをして、自分のように考えこむマスターを見ていると、こんなときにアレだけど、どこか幸せだった。


他人の悩みを、自分のことと同じように悩んでくれる。


そんな思いやりが、今の私にはとってもありがたい。


「一途だと、自分では思ってたんですけど」


違ったみたいで、と苦々しく笑う。


でもマスターは笑わず、真面目な表情でかぶりを振った。


「揺れないことが、一途じゃない」


「え……」


「機械じゃないんだ。人間だから、優しくされるとふらっとする。ましてや、意中の相手との進展は皆無。そんなとき、好意を持ってくれる相手に出会えば、迷いもするさ」


「そう、ですかね」


「ああ。一途ってのは、揺れても何しても最終的には『やっぱりこの人じゃなきゃ』っていうような想いに駆られて、なりふりかまわぬ自分になれた結果を言う……と思うよ。ひとりを思い続ける『持続力』じゃなくて、紆余曲折ありながらも、初志貫徹を通した『結果』のことだと、思う」


「結果のこと……」
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