トルコの蕾
「だけどね、」
太一は絵美の作った花束を抱え、恥ずかしそうに笑いながら言った。
「残念ながら、僕の大切な女性はちっとも可愛げがないんだ」
絵美の後ろに立っている真希を見据えて、太一は爽やかな花の香りを吸い込んだ。
しっとりと水気を含んだ空気が身体に染み込んでいく。
「おまけにひねくれていて、偉そうでね。僕なんかからプロポーズされたって、笑って受け流してしまうような奴なんだよ」
絵美はふふっと笑い、情けない顔で笑う太一に言った。
「でも、とても愛していらっしゃるんですね」
太一は小さく頷いて、「ああ」と言った。
真希を見つめ、優しい花の香りを思い切り吸い込んで、ふうと息を吐き出した。
「真希」
太一は言った。
ロマンチックで愛に溢れた花束を両手で抱えて、真希が今まで見たこともない真剣な表情で。
「真希?」
太一がもう一度、真希の名前を呼んだ。
絵美が驚いて振り返る。
店長の真希は棒立ちで、小さく細かく震えている。
「…店長?」
絵美は不思議そうに、真希の顔を覗き込んだ。
太一の真剣な眼差しが突き刺さる。
だってこんなに誰かに見つめられたことなんてなかったのだ。
武は何度自分を抱いたって、こんなに真剣な表情で自分を見たことはなかったし、こんなに優しくてあたたかい声で、自分の名前を呼んだことなんてなかった。
いたずらっ子の小さな子どもを見る父親のような、呆れたような優しい眼差しで、愛に溢れた優しい言葉で包み込んでくれたことなんてなかったのだ。
絵美は見つめ合う太一と真希の視線の間に挟まれて、ふたりの顔を交互に見比べる。
「あ…あのっ…プロポーズってもしかして…」
太一は小さく頷いて、にっこりと笑った。