みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、焦がす。


息が詰まりそうな今日は、社長と過ごす約束の水曜日。結局、断りを入れられないまま時間だけが刻々と過ぎていた。


社長には本命がいると知ってしまってから、心に大きな迷いが生じて消えない。


幸せになって欲しい、と願っていたはずなのに。それを阻む存在が自身とは滑稽なものだ。


失笑しかけた時、机上の私用スマホからメール受信を告げる音が鳴り響いた。


すぐ手に取って操作すれば、ドア向こうに居る社長の名前を表示したではないか。


『今夜は変えない』という素っ気ないひと言が画面に映った。それを目にしただけで、心がぐらりと大きく揺れる。


何故こんな時に限って、無用な念押しなんてするの……?私は目の奥に生じる痛みを堪え、無機質な画面をタッチしていく。



『就業後にご連絡するつもりでしたが、友人が体調を崩したとのことで見舞いに行きたく存じます。
折角お気遣い頂き誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいませ。』


たったこれだけの文章を作成するのに、どれほど言葉に迷いながら作成したことか。


スマホが送信完了を知らせた直後、役目を終えたそれはデスクの引き出しへ仕舞った。


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