みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


外へ出ると暖かさを感じつつ、歩いて向かった最寄駅で電車に乗り込んだ。


ラッシュ時とはほど遠い静かな電車内では、スーツ姿の人々をチラホラ目にする。


ああ今日は平日なんだ、と今さらすぎる事実が不思議な気分に駆り立てていた。


進んでサボったクセに、そこはかとない申し訳なさを感じるのは何故だろうと自嘲する。


乗り継ぎを重ねて到着したのは、池袋のデパート内に店舗のあるメガネショップだ。


――私はメガネがなければダメ。特にあの男の視線は、仕事中の方が直接受けたくない…。



「いらっしゃいませ」

すぐに近づいてきた店員さんにイメージを伝えて、いくつかピックアップして貰った。


たくさんあるフレームをやみくもに探すより、任せた方が良いだろうと思ったから。


ちなみに希望は縁が太くなくてデザイン性も凝っていない、シンプルな縁ナシのピンクゴールド色のもの。


日中かけ続けている私的には、今どきのお洒落メガネよりチタン式の軽いフレームが良い。


それに何より…、アレと酷似した品を探していた。私に似合うと選んでくれたタイプだから。



「如何でしょうか?」


「…これ。こちらをレンズなしでお願いします」


5点ほどチョイス頂いた中で、ひとつ雰囲気がそっくりな品を見つけてそれを手にした。


ひとつだけ、煌めいたように映った。その品以外は色褪せて見えたほどに。


「お試しにならなくても宜しいですか?」


「ええ」と、笑顔でお会計を頼んだ。日常使いこそ良品をと思うから、少々値段が高くても構わなかった。


視力は良好だと測定等も遠慮する私に、不思議そうな目を向けた店員さん。


結局フレーム調整だけ行うと、選んだメガネとともに店の奥へ消えて行った。


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