みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


エレベーターを降りて、廊下を静かに秘書室へ戻ると、電話中だった田中チーフの元へ一目散で向かう。


電話の用件に聞き耳を立てる気は一切ないし、面倒なので傍らで待たせて頂くのはいつものことだ。


「了承しました」と低い彼の声を最後に、受話器が素早く電話機へ沈められる。


そこでデスク正面へ移動し、チーフと対峙するタイミングを計るのはとても大切。


クールをあっさり通り越して、冷淡というフレーズがお似合いな彼の眼差し。


それは機嫌の度合いでその温度が変わるから厄介だ。…今日は何やら、よろしくないご様子。



「恐れ入りますチーフ、社長から預かって参りました」


そう言って書類の入った封筒を差し出すと、無言で頷いた彼が受け取ってくれる。


これで残務を18時までに終えなければ、と一礼をして踵を返しかけたその時。


「間宮さん」

冷たい声色に阻まれた私は踏み止まり、「はい」と静かに声を返した。


メガネの奥の瞳を捉えると、いつも社長とは違った緊張感が走る。――うん、正直に言って苦手な存在だ。


もちろんそれを億尾には出さない。この会社で感情を出すなど、あり得ない愚かな行為だから…。



「来週の水曜日、社長の同行出張を頼みたい」


だがしかし――私の決意をこうもあっさりぶち壊すとは、この人もまた社長と同類なのか?


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