みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


ビジネス・スタイルであっさり態度を変えられては、私の方が悔しいけど仕方ない。


ていうか、今週もまたパーティー参加とかあり得ないんですけど。


「ドレス持ってきてる?」

「――は?恐れ入りますが、前回同様スーツのままで、」


思い出したくもない――社長と関係を持ってしまった先週の夜もパーティーだった。


その時のスタイルといえば、普段より華やかなスーツで参加していたのだ。


「堅苦しい。むしろ悪目立ちする。俺がイヤなんですけど」

「……僭越ながら、私はスーツが最上級の正装です。
何でしたら私では力不足ですし、今からお連れ様をお呼び下さいませ。ええ、それが最善策かと存じます」


数分前にパーティーだと聞かされて、出張時にドレスを持ってきていた方がオカシイわ。


本当だったら、ここへやって来るのは主任だったのに。……今さらデザイナーに八つ当たりしたい。


――ああもう、イチイチ面倒くさい男だ。嫌がるフツーの人間を巻き込むな!


ニコニコ愛想笑いを浮かべる私に対して、社長は皮肉混じりにクスリと笑った。



「スーツを脱がすのは、先週楽しませて貰った。
だが今日は、ドレス姿の朱祢を脱がせる楽しみが出来た。
――これで別の女をエスコートしてその女を抱くとは、些かクダラナイ茶番だ」

「私は平凡に生きておりますから、アブノーマルな世界に」

「あんなにエロい顔で、必死に“俺の”を欲しがったクセに?」

「……、」


平常心を貫く私の発言は、悉くスルーされていた。むしろ、悪い方向へ進んで行くではないか。


「ええ、分かりました!これから買いに出かけ」

「必要ないよ」

「へぇ!?」

軽い口調で鼻息の荒さにストップを掛けられ、素っ頓狂な声が漏れた。



「朱祢用のドレスも一緒に持って来た――サイズはピッタリ合うはずだ。
このあとホテル内のスパとヘアメイクも頼んであるし、不都合はないでしょ?」

「は、はぁ」

「じゃあ俺は、所用で出かけるから」

コクンとひとつ頷いた私は、彼の背中を見送りながら見事に白旗を振っていた。



――いきなり生じた、今夜のパーティー参加。……一抹の不安が過ぎるのは何故?


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