短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~

腕時計をちらりと見ると、時間は既に午後3時半を回っていた。
新聞に没頭していたので気づかなかった。ここに来てから、既に1時間以上経っている。

惠一は新聞から顔を上げ、自分がいる巨大なガラス張りの空間を見上げた。
途端に、空間の内外の雑音が耳に飛び込んできた。
ガラスの内側では、人々が靴音を立て急ぎ足で行き交っている。
ガラスの外側では、遠い地に向かう飛行機がゆっくりと速度を上げて動き出すところだった。

ロンドン・ヒースロー空港、ターミナル5。

惠一は軽くため息をつくと、テーブルのコーヒーを飲み干した。
この空港はやたら人を待たせるという評判は、どうやら本当のようだ。



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