911の恋迷路

 そうですか、とも言えないではないか。

 「あやしいですね」

 「じゅうぶん、あやしい」

 「---兄みたいに大手に勤めたくなくて」

 「え?」

 
 
 この不況の中、大手狙いの人が多いというのに。果歩の前に置かれた名刺には、ただ会社の名前。


 「兄は仕事で行ったNYでテロにあったんです。そして」

 (その続きを聞きたいんだよ)

 (そして、どうなったの?)

 

 陵が9・11のテロに遇ってからどうなったのか、慎はどうしても話そうとしなかった。

 嵐がやむまで、確かにゆっくりできそうだから、果歩は聞き出してやろうと粘った。

 

 しかし、慎は頭を下げるばかりで、「待ってくれ」の一点張りだった。

 「LOVE LOVE LOVE」が鳴る。

 
 (もう!)

 

 大事なところでメール着信音。
 
 苛立ち、それでも見ると隼人だった。
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