千寿桜―宗久シリーズ2―
真実 7
「…………暑い」




額から顎へと流れていく汗を手ぬぐいで拭い、俺は呟いた。





周りでは、男達の気合いを入れる甲高い声がこだましている。


まるで蒸篭の様な道場の中、冷気を求め、こうして隅に腰を降ろしているだけで、汗は噴き出す程に流れてくる。




胴着が肌に張り付く感触に、今すぐ頭から水を浴びたい衝動に駆られていた。







「はい……暑いですね」




隣では貞吉が、こもる熱気にあてられているのか、ぼんやりとした表情で頷く。







貞吉は、父上の重臣である沢田貞之助の次男坊で、歳は十三だ。




のんびりとした穏やかな性格で、それが覇気が無いと見えるらしく、父である貞之助はいつも不安をこぼしている。



武士たる者、自分を高める意志を持たなければならん、と。







出会ったのは八年前、道場である。



鍛えて欲しいと言う父に連れられ、道場に姿を見せた貞吉は、身体が細い上に肌も白く、一見女と見間違える少年であった。





だが、今はその頃の面影は無い。





それもその筈。






貞吉を鍛え上げたのは、源三郎なのだから。
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