千寿桜―宗久シリーズ2―
真実 8
「若様」

「何だ」

「よく冷えておりますね」

「だろう?半時も冷やしたのだからな」






俺は、屋敷の馬場の前にて、貞吉と冷えた瓜を頬張っていた。


源三郎が居ない為なのだが、貞吉にとっては運が良かったとなるのだろう。









芳の所から瓜をくすねて来た源三郎と共に、井戸にその熟れた瓜を沈めた。


「半時も経てば、食べ頃ですね」



炎天下、よく冷えます様にと祈りを込めて、井戸の前にて両手を合わせた。





半時経ち、そろそろだと声を掛けた俺に、源三郎は端正な顔に残念そうな色を浮かべつつこう言った。






「私、少々野暮用ができてしまいました」






申し訳なさそうに笑う源三郎。


だが、その緩みきった口元に、俺の勘は冴えた。








……………女だ。








軽く瞳を細め、目の前に立ち首を掻く源三郎を凝視した。



心なしか、身なりも小綺麗に整っている様な気がする。





「…………お前」

「え?違いますよ?」



取り繕う様に、身振り手振りで違うを繰り返す源三郎。






………まだ、何も言ってはいないが?




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