千寿桜―宗久シリーズ2―
女性は、僕が期待していたその人では無かった。



夢の中の、あの人では無かった。








そうだな……。


まさか、本当に実在する訳は無い。




明らかに現世の人では無かったと、自分でも確信していた筈じゃないか。





期待していた自分に、笑えた。










振り向いた女性は、女性と言うには若い印象を受けた。



着物を着ているせいか大人びて見えるが、多分二十二歳から二十四歳くらい。



僕と、二年以上は離れてはいないくらいだろう。









「観光にいらした方ですか?」





女性はやんわりと、たおやかな笑顔を見せた。




「はぁ……まぁ……そんな様なものです」





間の抜けた返答だ。



頭を掻いて、苦笑いをする。






いや、ごまかした…と言える。



心音の高鳴りを悟られぬ様、笑ってごまかした。



むしろ、更に早くなっていく事に戸惑ってさえいる。






……何だろう、この感じは。





僕の中にはなぜ、まだ高揚した感覚がはっきりと残っているのだろう。



桜の余韻では無い、別に続くものが。


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