森林浴―或る弟の手記―
子供の私の目から見ても、佐保里姉さんは母性を滲み出していました。
お腹にいる我が子が愛しい。
そう感じさせるには十分な表情をしていたのですから。
まだ十七歳といえど、世間では嫁いでいる女性も多かった時代。
母になるのに早すぎる歳ではありません。
それに、佐保里姉さんなら、立派な母親になるだろうと私は思ってもいました。
理由なんてありませんが、自然とそう思えたのです。
佐保里姉さん自身も、産むつもりでいたでしょうし、何より産みたかったと思います。
何故、こんなふうな言い方をするかといいますと、悲劇は二日後に起きたのです。
台風もすっかり去った朝、学校に行く為に外に出ると、辺りは悲惨なことになっていました。
風邪で薙ぎ倒された木々に、道路に突っ伏している近所の商店の看板。
窓が割れている家や、屋根が飛ばされている家もありました。
この時代の家は今とは違います。
大きな台風が来れば、こんなものでした。
でも、今の時代のような建物を知らない私から見たら、台風は酷く恐ろしいものでしかありません。
そんな道中を歩いて学校に向かうのは躊躇われした。
いつもは運転手付きの車で学校まで行くのですが、この日は車が使えない、と言われたのです。