アザレア
「六時前。まだ寝てろよ、顔色が悪い」

「いえ……っ、大丈夫です」

幾度体を重ねたとて、消える事ない気恥ずかしさ。
何も身に纏わぬが故、ベッドの中から出るに出られない私に反して、社長は着々と身なりを整える。


何時の間にか追いつけなくなった身長。
見慣れた服装がブレザーからスーツ姿に入れ変わり、幼かった頃からは想像できなかった低く重みのある声。

鋭さを増した瞳が横目で覗き見ていた私を捉え、

「大体メイが働く必要なんて――、」

昨日は私を優秀だと言っていたのに、何が不満だと言うのか。
案の定、もう常套句となってしまった台詞を口にし、

「社長は! 社長は、私を不要だとおっしゃるのですか……!?」

卑怯な私は声を荒げ、それを聞きたくない一心で遮る。
< 17 / 55 >

この作品をシェア

pagetop