失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
先生の講義が他のどの講義よりも楽しくて有意義で、先生の事をもっと知りたいと思った。
そこから講義の質問だとかレポートの相談だとか、なにかにつけて先生に話しかけて一緒にご飯に行くようになって、抑えられない想いを告げようかどうしようか迷っていた時、先生がわたしに言ってくれた。

『付き合ってほしい』って。

この恋を始めたのも終わらせたのもあなたです先生。

わたしのこの想いを、どうしろというのですか。

「真弓と…こうして話すのは、久しぶりだな…。顔は毎週見てるのに」

ふっと笑った先生の顔は鬼の前田の顔じゃなくて、今までずっとわたしに向けられていた、あの優しい笑顔のまま。
それにつられるように浮かんでくる思い出たち。

先生とまだ話した事のなかった1年生、初めて質問をしに行った夏、文化祭の出し物の優待券を渡した秋、飲み会で隣に座ってお酒を注いだ冬、先生から交際を申し込まれた2年生の春。

初めて…先生と身体を繋いだ夏の終わり。

その何もかもが一つ一つ色鮮やかに浮かんできた。

ずっと、幸せに包まれてた。

幸せすぎたのかもしれない。

だから、こうしてしっぺ返しがきたんだ。

「真弓といる時だけが俺の安らぎだった。真弓の存在が俺を癒してくれていた」

先生…そんな事、付き合ってるときは一言も言ってくれなかった。いつも大人の男の人で人をその気にさせて振り回して。

わたしは先生に嫌われないように、って一生懸命大人になろうとしてなり切れてなくて空回りしてた。

それを先生は全部お見通しで…、鬼の前田の異名からは想像もつかないほど柔らかな笑顔でいつも言うの。

『そんな真弓が好きだ』って。

「そんな真弓が今でも好きだ」


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