不機嫌に最愛
*彼、思案中につき──♯SHIKI


【彼、思案中につき──♯SHIKI】

☆゜・*:.。. .。.:*・゜☆゜



望月梓希(モチヅキシキ)、28歳、職業美容師。

現在進行形で、20歳の小娘に翻弄されている。



「望月さん、お疲れさまでーす。」

「お疲れ。」



貴重な仕事の合間の休憩時間まで、頭を占領するのは……俺を好きすぎる年下の女の子で。

昨日はつい歯止めが効かなくて、……失敗したよなー。



「望月さん、望月さん。」



休憩室に入ってきた後輩の橘(昨日、萌楓の髪を切ることを断念したヤツ)は、興味津々といった顔で呼び掛けてくる。



「んー?どうした?」

「昨日のお客様、えーと……萌楓さん?そう!柏木萌楓さん。望月さんの彼女っすか?」



「…つ!?ぶほっ、ごほっ……!!」

「大丈夫ですか!?」



……飲んでる最中の野菜ジュースを盛大に噎せた俺に、橘は大量のティッシュを取り出して渡してくる始末。

なんでよりによって、橘から萌楓の話なんだよ……。

というか、



「……付き合ってないから。」

「えー?あんなに独占欲丸出しなのにですか?……あ、」



咳払いをして喉を整えながらも、“独占欲~”辺りでジト目で睨み始めた俺に、橘はわかりやすく焦りながら、か細い声ですんませんと付け加える。



「別に、いーけど。」



とは言いながら、盛大に溜息を吐いてしまうほどには、俺だって悩んでいる。



「しかし、萌楓さんってめっちゃくちゃ可愛いですよね!?俺、ああいう女の子を彼女にしたいです!!」



うん、萌楓は可愛い。

橘より知ってるし、最近は更に……って、



「お前、何言ってるの?」

「はっ!いや、すんません、冗談です……、」

「ふーん、」



わかりやすく不機嫌な俺に、橘は取り繕うように空笑いをして。



「あ、じゃあ、先戻ります!お疲れさまです!!」



……逃げた。

橘、空気読めよ。

今、外野から萌楓の話しとか……有り得ないだろ。




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