彼と彼女と彼の事情
気が付けば、肩を小刻みに震わせる隼人の手をギュッと握り締めていた。 



――もう、十分だった。



隼人がこんなにも苦しんでいたなんて……。 


何も気付かず、隼人を一方的に責め立てばかりいた自分に腹立たしさを感じた。 

何にも、知らなかったくせに……何にも。



「ごめんな、奈緒……」


声を震わせながらそう話す隼人に、大きく頭を横に振った。 


何も分かっていなかったのは、私の方だ。 


隼人の抱えた深い心の闇に、気遣うどころか、気付くことすらできなかったなんて……。


ごめんね、隼人……許して……。


そう、心の中で呟いた。




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