彼と彼女と彼の事情
こうした郁人との時間は、とても楽しい一時(ひととき)だった。
時間を忘れて、他愛ない話を二人で語り、笑い転げた。
郁人は引き出しの多い人で、話すジャンルも多岐に渡っている。
おまけに、その話し方が面白いからつい笑ってしまうのだ。
――と、突然、ガチャリと音を立てた玄関のドア。
その音のする方向を振り返ると、そこには大きなボストンバックと紙袋を提げた隼人の姿があった。
一瞬、静まり返った部屋。
その空気を破ったのは、やはり郁人だった。