彼と彼女と彼の事情


運ばれてきたデザートとコーヒーには一切、手を付けることができなかった。


「食わないのか、奈緒。
おまえの好きなデザートだろ?」


首を横に振った私は、まださっきの話が整理できずにいた。


「そっか。じゃあ、俺が食っとくよ」


そう言って、二人分のデザートを美味しそうに平らげた。


帰りぎわ、シェフのピエールさんが、


「本日は、お気に召して頂けましたでしょうか?」


と、流暢な日本語で話すも、作り笑いを返すのが精一杯だった。


それを察してか、隣にいる郁人がお得意の喋りで場を和やかにし、ピエールさんを笑わせていた。



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