ワイルドで行こう

13.アイツの女になるなら、肝据えな。


 母が確信犯なら、娘も確信犯。ある目的のために。
 その土曜日も、琴子は出かける。
「早いね。英児君のところにいくんでしょ」
 玄関でスニーカーを履く娘を見て、母が呼び止める。
「うん。ちょっとね。彼の部屋をあれこれ片づけたいから」
「大丈夫なの。営業中に彼のお店に行っても」
「うん。先週、また夕方に訪ねた時に、今度は顔見せというか挨拶をしておいたから」
 本当のことだった。初めて英児のお店兼自宅を訪ねた翌週も、琴子は閉店の時間に合わせて出向いた。今度は少しだけ早めに。スタッフが残っている時に会いに行った。だけれど、それも英児と『打ち合わせ済み』で、閉店後、店長の彼から『つきあい始めた彼女。時々、俺の二階の自宅に訪ねてくるからよろしく』と正式に紹介してくれた。
『大内琴子です。よろしくお願いします』
 事務員の男性は気前よく迎えてくれ、整備士の三人は、穏やかにニッコリしている男性、意味深な笑みで英児をからかっている男性、そして琴子が一番構えていたあのおじ様は案の定『ふん』と無愛想だった。挨拶はそれだけで終わり、店も閉まったので皆帰宅し、琴子は英児と共に彼の部屋で週末を過ごした。
 彼の部屋で、約束通りに手料理を作ってあげたり。相変わらず、ベッドだろうがどこだろうが部屋の中では薄着で気ままに愛し合ったり。そして夜遅いドライブに出かけたり。本当に今がその時とばかりに、英児と二人。平日の仕事が終わった後も待ち合わせ、とにかく会える時間は会って二人で過ごした。
 そして先週の日曜には英児が再び、琴子の母に招待される。庭の手入れが終わったお礼と称して。それから母が『英児君』と呼ぶようになった。
『今度、お母さんも一緒にドライブに行きましょう。俺、もっとゆったり乗れる車を借りてきますから』
 英児は母にもきちんと気を配ってくれた。母が寂しがらないように――。母と娘だけの家族だからと。
 その気遣いが、自分と亡くなった母親との経験を活かしているのだろうかと思うと、琴子は申し訳ないような、そして切ない気持になってしまう。

< 125 / 698 >

この作品をシェア

pagetop