ワイルドで行こう

 彼とは話しやすい。ほんのちょっとだけ年上で、この武智さんも『元ヤン』だったとか。つまり英児の後輩。そしてあの植木職人篠原さんと同級生だという。きちんと事務職を身につけたので、英児が店を開く時に手伝って欲しいと他でお勤めしていたところを引き抜いたとのこと。
 眼鏡をかけて、彼だけワイシャツとネクタイに作業着。英児や篠原さんと違って、そういう元ヤンの名残が見られなかったので、琴子はそれを知って驚いたほど。接し方もソフトでおおらかなので、とっても話しやすい。それに結構理数系らしく頭の回転も速そう――と琴子は感じていた。
 武智さんとそんな話し合いをしていると、店先で顧客の車を洗車していた英児が事務所に戻ってきて琴子を呼んだ。
「琴子、簡単なチェック教えてやるから」
 店長自ら? 琴子は驚きながらも、英児から借りている龍星轟の上着を羽織り店先に出てみる。
 シルビアをワックスがけさせてくれたあの後も、琴子は店の代車を使ってワックスがけを練習させてもらったりした。矢野さんが指導につくことが多い。どうしても『彼女、恋人』という先入観が働くので――という滝田店長からの要望だった。
 それなのに。この日は店長の彼自ら手ほどきしてくれるという。
 練習はなんと英児が洗車していた顧客の車。だが英児は黙ってボンネットを開け、ボンネット・ステイで支えエンジンルームを琴子に見せる。
 二人で並んで立つと、英児がエンジンルームを指さす。
「これがエンジン。そしてラジエーター、バッテリー、エンジンオイル……」
 各部位を教えてくれ、やがて彼の手がエンジンルームの端っこにある指ひとつぶんだけ入るリングに指を差し込んだ。それを引きあげると、とても長い鉄の平たい棒が出てくる。
「これは『オイルレベルゲージ』と言って、エンジンオイルの残量をチェックするものなんだ」
 鉄のゲージには、ぎらぎらと油がついている。それを琴子の目の前へと手を添えて見せてくる。

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