ワイルドで行こう

5.ロケットに乗って、どこまでも


 この日は、愛車のスカイラインで三好デザイン事務所を訪れる。
 駐車場には既に、彼女のフェアレディZが停まっている。その隣の空いているスペースに、英児は黒い車を駐車させた。
 
「いらっしゃい。滝田君」
「お邪魔いたします」
 事務所の扉を開けると、三好ジュニア社長に迎えられる。その後ろにアシスタントの琴子が。婚約者だというのに、こんな時はきちんとしていて来客として英児に礼をしてくれる。だが、その後すぐにいつもの微笑みも見せてくれた。
「いやーいやー、琴子から話を聞いてびっくりしたよー。まさか、龍星轟のレディス用ステッカー制作をうちに依頼してくれるだなんて」
 嬉しそうに出迎えてくれたので、英児もホッとする。
「出来れば、相談しやすい事務所がいいなと思っているので、よろしくお願いいたします」
「うん。うちを選んでくれて有り難う」
 婚約者が勤めていることもあるが、三好社長が龍星轟のお得意様であるからこそ、すぐに『ここに頼んでみよう』と思いついた。地方の中小企業。持ちつ持たれつ、横繋がりも大事。小さな会社を経営する者同士、そこは三好社長も痛感しているだろう。だから英児が依頼した気持ちもわかってくれていると思ったのだが。
「本当に、俺んとこのデザインで良かったのかな」
 せっかくの依頼なのに、そこは腑に落ちない小さな笑みを浮かべるだけの三好社長。その反応が英児の中でひっかかった。
「まあ、いいや。どうするかまずコンサルさせてもらおうか。見積もりも出してあるから」
 早速、応接ソファーに案内され、英児はそこへ依頼人として腰をかける。
 目の前に、三好ジュニア社長。そしてその隣に琴子が……。
「ああ悪い、琴子。俺のデスクの上にある版下。親父のところに持っていてくれよ。急ぎ。それから帰りに、俺の煙草。そこらへんで二箱買ってきて」
「……はい」
 琴子が不意打ちを食らった顔をしている。だが上司の指示、すぐにすべてを飲み込んだような顔を見せ、言われたとおりに事務所を出て行った。
 ここで英児もすぐに気がついた。それは琴子も察していることだろう。そして、三好ジュニア社長もどこか浮かない顔だったが、すぐさま話を開始した。
「これ。一応、見積もりだしたんだけど……。いまの龍星轟ステッカーと同じ大きさと素材、フルカラー印刷としての見積もり。それとデザイン料は別途、ひとまずの基本料金だけど下記にある通り」
「ありがとうございます」
 まずは英児の依頼通りに準備をしてくれていた見積もりを受け取る。

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