ワイルドで行こう
彼女の手を握り直し、キスをして、そして英児もそのまま彼女の中にそっと入り込んだ。
「あ、っん」
いつもと違う顔をした琴子に、英児の胸が灼けそうになる。
子供達が起きないよう、ここ数年の彼女は、声を必死に堪えるようになってしまった。なのに、つい漏れた声。すぐに自分で唇を引き結んで『んん』と堪えている彼女を見下ろすのも、英児の男を加速させる。
「ひ、久しぶりだな……こういうの……」
なにもつけないで愛しあう。それは恋人の時に新婚の時に無条件に与えられていた甘美。いまはそういうわけにもいかなくなり、でも……今夜は。
「ん、ん」
心なしか、彼女もいつもより頬が赤くて乱れているような気がした。酒のせい? 久しぶりの快楽のせい? 英児もとろけそうになってよく分からなくなってくる。
琴子の漏れる声がいつもより響くせいか。夢中になって愛している英児の目の端で、娘の小鳥がふっと寝返ったのが見えてしまう。
だけれど英児もやめたくない。そんな妻の口元を塞いで、喘ぎ声と吐息を密かに分け合った。
このベッドで自由奔放に彼女と愛しあうような環境ではなくなったけれど。でも、子供達に気遣ってベッドの端で密かに静かにそっと睦み合う術を彼女と作り上げていく――。そんな実感もある。
「なんだよ。俺の方がダメになりそうだ」
今夜はお前をとろとろにしてやろうと思ったのに、俺が溶けちまったよ。
ほてる身体を抱きあって、静かに熱い吐息を混ぜあい共に果てる真夜中――。彼女はひとつ歳を取ったかもしれないけど、いつのまにか可愛い女からいい女になっている、と、夫は思う。
今度、英児の誕生日には――
奥さんが仕返し満々の締めくくりをしてくれたのだが。
「英児さん、ちょっと……いい?」
ママの誕生日が過ぎて、次はパパの誕生日がもうすぐという頃。
子供と帰ってきた琴子が、社長デスクに座って事務仕事をしている夫を裏通路から呼んだ。
「なんだよ」
構わないから、こっちに来いよ――と、業務中の事務所に遠慮している妻を手招きした。