ワイルドで行こう



 耳元で外に軽く跳ねているくせのある彼の毛先が潮風に揺れている。一重の目元はそうしていると少し鋭いけれど、男らしい眼差しで、もうずっとずっと前から小鳥はこの眼に恋をしてきた。

「俺が龍星轟に来た時は、そんな匂いなんてしなかった。お前、もう子供じゃなくなるんだな。きっとオカミさんみたいな女になれるよ」

 もう、小鳥の身体は熱くなっていた。匂い。小鳥にとって『匂い』は男女を意味する。両親が常にそれを間に挟んで愛しあっている姿を見せられてきたから。

 いつか、好きな人に言って欲しい。『女のいい匂い』だと、言って欲しい。そう思っていた。

 お前、女の匂いがするようになってきたな。

 好きな人がそれに近いことを言ってくれた。まだ制服姿の、お転婆な、子供のような女の子に。

 でも小鳥も感じている。ちょっと前まで大学を卒業したばかりの爽やかな好青年だと思っていたお兄ちゃん。いつのまにか大人の男の匂いをすぐ側で放っている。それはどこかで感じた匂いに似ている。

 お兄ちゃんは、気がついてるのだろうか。自分も男の強い匂いを、いつだってふりまいていることを。

 でも。お兄ちゃんのこの匂いは、他の女性のもの。





※予告代わりに、今回は、リトルバード・アクセス《5a》の冒頭まで。→次ページへどうぞ
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