ワイルドで行こう



「勿論。この不景気でいまどき将来安泰を約束してくれる企業は、大企業でもなくなったよ。うちのような個人経営の中小企業でも、大企業でも潰れる時は潰れる。そんな中、うちの店は本当に恵まれている方だと思う。タキさんの長年の積み重ねで顧客はついているし、若い人材も育っている。中堅の技術者も確保して、どんな車にも対応できる。稼ぎも安泰とは言い切れないけど、もうずうっと良い線を翔がここに来る前から何年も維持している。従業員をまだ増やしてもいいぐらいだし、そこらへんの大手地方企業並の給与に賞与も出している。それでも尚、彼女が納得しないのは、やっぱり職種なんだよ」

「職種……って。車ってことか」

 親父さんがショックを受けた顔に。

 実力がない企業というレッテル以上に言われたくないことだろう。そしてそれは小鳥も一緒。一家と従業員一同が愛している車を拒否されたら、瞳子さんと付き合っていける訳がない。

「彼氏のちょっと困った趣味、程度だったんじゃない。学生の頃は。その程度なら許していたんだよ。なのに大学を卒業したら、何を思ったのか行けそうな就職先を蹴って、なんだか良くわからない個人経営の車屋に就職しちゃった。でも、ちょっとチャレンジしてみて、彼が目を覚まして、大手の安定した企業に転職をしてスーツのビジネスマンになってくれると待っていたんじゃないかな」
「それ、マジ……。武智、お前、そういうのどこから……」
「女の子が考えそうなことだよ。瞳子さんの雰囲気見ていたらわかるじゃん。『いいとこのお嬢さん』、タキさんがいちばん近づきたくて近づけなくて、避けられちゃう種の女性だね」

 うわー、武ちゃん。きっつう……。
 さすがに小鳥も唖然とした。

 そして父も口を開けて茫然としていた。
 たぶん父のコンプレックスなのだろう? 
 翔はそうではないが、父は元ヤン。その風情からお嬢様風の女性からは避けられてきたのではないかと、娘として思っちゃったりもする。

 だからこそ。琴子母のような女性と良く結婚できたなとも思うし、だから琴子母を宝物みたいに大事にして愛して離したくなくて必死になっちゃうんだろうな……とか。




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