ワイルドで行こう



「おう、小鳥。お帰り」

 煙草をくわえている英児父がMR2を見送りながら、小鳥を見下ろしていた。

「父ちゃん。翔兄ちゃんはどこへ仕事に行くの」

 だが親父さんは直ぐには応えてくれず。煙草の煙をふいっと吹くと、また黙って小鳥を見下ろしていた。

「祖母ちゃんが、新しい編み糸を買ってきたから、小鳥が帰ったら伝えてくれと言っていた」

 それだけいうと背を向け、事務所に入ってしまう。

 え、会話になっていないんだけど? 
 お兄ちゃんがどこへ行ったのか聞いたのに。なんで教えてくれないの? 

 首を傾げながら、事務所裏の勝手口に向かう。

 二階自宅に戻ると、聖児が先に帰宅していた。茶髪のままで毎日のらりくらりしている。自動車愛好会にも誘ったけれど『姉貴がいるなんてやりづれえ』と言って寄りつかない。

「聖児。帰っていたんだ」
「おう。俺、今からコンビニに行くけどよ。姉ちゃんもなんかいるかー?」
「なにも」

 じゃあ、行ってくるわ。

 ジャージと白いティシャツをだらっと着込んで、気怠そうに歩く弟の後ろ姿が。もう……時々親父さんと重なるから困る。

 ヤンキー素質、親父さん譲りになりそうだなあと思っている。実際に聖児自身も、学校では既に目立っていた。小鳥の弟というのもあるが、『弟はマジ、ヤンキーチルドレン』と囁かれている。

 そんな弟にふと尋ねていた。

「ねえ、聖児。翔兄はどこか仕事に行くの。父ちゃんと一緒じゃないのにスーツで一人で出かけていったみたいだけど」

 気怠そうな背中が急にピンとまっすぐになった。そして弟が振り返る。
 小鳥の様子を窺うように、ジッと見つめて黙っている。
 あれ、その目……。さっきの親父さんとそっくりなんだけど?





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