ワイルドで行こう



 もうお終いだ。お兄ちゃんが本気を出した。

 ずっとずっと長く付き合ってきた恋人。長く付き合いすぎて、最近はちょっとした倦怠期だったみたいだけれど、きっと昨日の話し合いで仲直りをしたんだ。

 お兄ちゃんも瞳子さんのことを考え直して、あんなにかっこよくきめて、車もピカピカにして。助手席にあったのはきっと『婚約指輪』!

 終わった。私の恋、初めての恋。やっと……終わった。

 胸に押し迫るものがあった。それはママが時々買ってくる大人のチョコレートのような、胸がキュッと締め付けられる甘いリキュールの香りを嗅いだ時みたいに。甘いけど苦かったり、馴染まないリキュールの大人な匂いに酔ったり。でもすぐに溶けてなくなっちゃう。楽しいこといっぱいあった。届かないものとわかっていて泣きたいこともいっぱいあった。

 わかっていた。いつか終わりがくるって。

 だって……。彼は小鳥よりもずっとずっと先の道を歩いている人。その先々に、まだ小鳥が辿り着くことができない沢山の出来事を経験して、先に経験して、誰もが手に入れていくものを、どんどん先に獲得していく。

 ついに。結婚までも。

 シーツを握りしめて、小鳥は声を殺して泣いた。



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