ワイルドで行こう

 .リトルバード・アクセス《8b》




 だけど小鳥は確信していた。

 小鳥さえいれば、誰かが一人でも彼の傍にいれば、最悪なことにはならない。
 そう信じている。
 そうでなければ、小鳥は助手席から降ろされているはず。いつものきちんとした翔兄なら、引き返して小鳥だけでも置いていこうとする。なのに、横に置いてくれている。

 彼は小鳥を乗せて、MR2を走らせている。アクセルを荒っぽく踏んでいるけど、そんなにメーターを振り切るような暴走でもない。

 信じている。大丈夫。翔兄は馬鹿なことはしない! 
 私が、龍星轟に連れて帰る!

 MR2は市街を抜けて、インターチェンジへ。ETCゲートをくぐって高速道路へ。

 『俺は直線が好き』。
 峠よりも翔兄はまっすぐスピードに乗ることが快感になるタイプ。
 ゲートをくぐると、さらに翔はアクセルを踏む。白い袖口が汚れた腕で彼が軽やかにギアをシフトしていく。その度にMR2のエンジン回転数が上がっていく音。

 地方の一車線しかない高速道路をMR2は羽根でも生えたかのように駆ける。まるで闇夜を地上すれすれに這って飛ぶ猛禽のよう。鋭く速く軽やかな伸びでアスファルトの上を飛んでいく。

 シートにいる小鳥は既に『G』を感じていた。ガードレールも中央分離帯のオレンジのポールもすごい勢いで小鳥の視界から去っていくほどのスピード……そんな中での重力を。

 MR2はエンジン音を長く響かせ、今このために生まれたとばかりに、その性能を出し切って自由になっていると小鳥は感じていた。




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