ワイルドで行こう



 だから黙って、ひたすら黙って。でも彼が突き進んでいく夜を一緒に見据える。

 車は南部地方に向かっている。こんな夜遅くに、この辺りに来るのは初めてのこと。高速を降りて、瀬戸内を見渡す岬に向かうラインを走り抜け、ついに翔の車はこの半島の先端、三崎町の岬灯台まで来てしまった。

 展望台の駐車場に着くと、運転席を降りた翔が、やっと笑顔を見せて伸びをした。

「あー、やっちまった」

 いつもの八重歯が見えたので、小鳥もほっとして助手席を降りた。

「未成年連れ去り。親父さんに、クビにされるかな。俺」

 落ち着きを取り戻した彼が、それでも笑って、ようやっとスラックスのポケットから携帯電話を取り出した。

「社長、桧垣です。……申し訳ありませんでした」

 落ち着いたら落ち着いたで、今度は躊躇いもなく英児父に連絡をしたので、小鳥も緊張して硬直――。

 やばい。私もやばい。
 こんな夜中に、よく知っているお兄さんとはいえ、大人の男性にひっついて、こんな夜中の、こんな遠くまで一緒に来てしまった。

 『お前のオトシマエは……!』。つい先日も、後先考えずに起こしてしまったことで、手痛いペナルティを喰らったばかり……。

 まさか。今度は……『MR2はお前にはやらねえ』とか!?

「はい、はい。承知しています。本当に、本当に、申し訳ありませんでした」

 密かに顔面蒼白状態になっている小鳥に、翔が携帯電話を差し出していた。

「親父さんが、替わってくれと言っている」

 MR2と同じ、青い携帯電話を小鳥は受け取る。もう心臓ばくばく。
 どうしよう、父ちゃん、すごく怒っているはず! 
 もう恐ろしくて息ができない。

「……父ちゃん」



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