ワイルドで行こう



「お兄ちゃんだけが悪いんじゃないよ。お兄ちゃんは一人じゃないよ。本当に一緒にいたい人じゃないとは思うけど、明日だって、お兄ちゃんには龍星轟の皆がいるよ。父ちゃんだって待っているよ」

 分かってる。彼が求めている寂しさを埋めるいちばんの存在ではないことだって。的外れなことを叫んでいるとも……分かっている。

「小鳥……」

 抱きつかれて硬直していることも、小鳥はわかっていた。まったく知らない人間に突然抱きつかれて困惑している身体の反応だった。瞳子さんなら、お兄ちゃんは崩れるようにこの肉体を優しく柔らかくするのだろうけど……と。

 だけど。そこで小鳥の長い黒髪をつむじからすうっと撫でる感触……。

「ありがとうな、小鳥」

 結っていない黒髪を何度も撫でてくれる大きな手。

「一人だったら、俺、どうなっていたかわからない。それに。小鳥も社長も、こんな俺のために、こんなに一生懸命にしてくれることがわかったから」

 だから、もう大丈夫。

 彼がそう耳元で囁いてくれた時。今度は小鳥が抱きしめられていることに気がついた。

 びっくりして今度、身体を硬くしたのは小鳥。
 でも翔は優しく小鳥の背中ごと抱きしめてくれていた。



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