ワイルドで行こう



「え、だって。卒業しちゃうし、」
「先輩の自動車愛好会も、ちょっと覗いてみたかったんです。でも、私あんまり車に詳しくないし、三年生が多いし……」
「えー、そんなことないよ。うちらも卒業しちゃう三年生ばかりだから、存続を気にしていたんだよね。二年生大歓迎だよ。詳しくないならなおさら大歓迎!」

 そこで二人で顔を見合わせた。

「……今度、じゃあ、手芸部。のぞいてみようかな」
「ほんとですか。滝田先輩が来てくれたら、他の女の子も喜びます」

 実は。最初に入ってみたいと思っていたのが手芸部だった――というのは内緒の話。柄じゃないと言われそうで避けていたことと、家に帰れば相手をしてくれる祖母がいるので手芸はオフタイムと決めつけていた。

「えー、滝田先輩。これだけ作れたら他にも作っていそう」
「ええっと、実は……。いま、うちのお祖母ちゃんと夏向けのお花のレエス編みをしていて」

 また彼女が目を丸くして『えー』と驚いた。

「手芸は、小さい頃からお祖母ちゃんが全部教えてくれて、家に帰ったらよく二人でやっているんだ」

 いまは、小さな丸いテーブルクロスを編んでいるよと教えると、彼女の目が輝きだした。

 そこで小鳥はふいに呟く。

「よかったら。うちに来てみる? 今日もお祖母ちゃんと一緒に編む約束しているんだけど」

 今度の彼女は『え!』と固まった。

「あ、ごめん。唐突に、家も反対方向だもんね」
「いえ。是非! 車屋さんも見てみたいです」

 小鳥が何も言わなくても、彼女は自転車を置いてくると走っていった。

 その後、一緒にバスに乗って空港通り向こうの龍星轟まで。バスの中でも、眼鏡の彼女といろいろと話をした。結構、気が合うことがわかった。

 彼女の名前は、野口菫。
 バスを降りる時には、小鳥はもうスミレちゃんと呼んでいた。


 

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