ワイルドで行こう



 杖をついた白髪の鈴子祖母が笑顔で出迎えてくれる。

「小鳥ちゃんのお友達? えっとカリンちゃんだったかしら?」
「ううん。彼女は二年生でスミレちゃん」

 お祖母ちゃんがじっと耳を傾け。

「え、カリンちゃんじゃなくて、スミレちゃんだったの? お祖母ちゃんずっと勘違いしていたのかしら!?」
「今日は花梨ちゃんじゃなくて、スミレちゃん。新しいお友達」
「まあ、そうなの! それはそれは。どうぞどうぞ」

 数年前から耳が遠くなってきて、こうして時々会話が噛み合わないけれど、お祖母ちゃんは元気。会えなかった大内の祖父が亡くなった後、鈴子祖母も倒れたと聞いたことがある。一命は取り留めたが、足と手に後遺症が残った。英児父が琴子母と出会った時、琴子母は鈴子祖母を甲斐甲斐しく介助する生活をしていたと聞いている。

 そんなお祖母ちゃんは『あの時に助かったせいか、逆に元気で長生きしちゃって』とよく言っている。

 そんな苦労をしてきたお祖母ちゃんだからこそ、孫が何をしたとかは両親もわざわざ伝えず、穏やかな毎日を送ってもらえるよう配慮していることが小鳥にもわかっていた。

 だから敢えて、スミレとの出会いについては今回も言わない。

「おばあちゃん。彼女もお花の丸いテーブルクロスを作りたいんだって。出来たら手芸部でも作ってみようかなって話になっているんだけど」
「素敵ね。小鳥ちゃんも手芸部に入るの?」

 鈴子祖母が時々『学校で手芸のお友達いないの。部活とかないの』と気にしていたことがある。だから今日は笑顔で応える。

「うん。入ることにしたんだ」

 横にいたスミレが嬉しそうに微笑んだのが見えた。

「あらー、安心したわ。よかったわね」

 そして鈴子祖母も嬉しそうにして、部屋に通してくれる。

 すっかりこの車屋一家と暮らすことに馴染んだ祖母の一階住居は、英国のお祖母ちゃんの家みたいな雰囲気でまとめられている。

 そんな鈴子祖母のセンスで溢れる住まいを見たスミレがとても感激していた。

 もてなしてくれる優しいばあちゃんの手ほどきで、二時間ほど笑い声を交えながらレエス編みを楽しんだ。

「とっても楽しかったです。それにお祖母さんの作品、どれも素敵で感激。私もあんなふうに沢山作りたい」

 本当に女の子らしいんだなあと思わせてくれるスミレは、なんだか妹みたいに思えてくるほど、親しみやすかった。




< 553 / 698 >

この作品をシェア

pagetop