ワイルドで行こう

 .リトルバード・アクセス《10b》




 そして、翔も父娘の不穏な空気に気がついたよう。だがそんな敏感な翔を見つけて、小鳥より父親が彼を手元に引き寄せた。

「翔! 小鳥のヤツ、またお前の大学の男と出かけるっていうんだよ」

 だけどそれを耳にして、翔兄は『やれやれ』と言わんばかりの小さな溜め息をついたのがわかった。

「社長。小鳥も大学二回生なんですから、そんな心配しなくても」
「だってよお、『車で走る』が目的じゃなくて、『異性と和気藹々する』のが第一目的なサークルの奴らだぞ」
「学生のうちに、幅広い交流を築くのは大事なことですよ。俺だって、未だに学生時代の友人に助けられるし……。社長だってそうじゃないですか。学生時代に後輩だった武智専務とはビジネスのパートナーだし、他にも知人で溢れているじゃないですか」

 『小鳥にあるべき、今』をいちばん理解してくれるお兄さん。顔色も変えず、淡々と説く部下に、流石の英児父も押し黙った。

 うわ、お兄ちゃん。いつもいつも有り難う。
 小鳥は心でひっそり感謝の呟き、そして彼に御礼の眼差しを向けると、やっと翔がにこっと微笑み返してくれる。

 あー、もうそれだけで。幸せ……。

 彼も三十を目の前にして、ますます落ち着いた大人のイイオトコになってきて。小鳥は毎日、未だにお兄ちゃんの笑顔や仕事中のクールな眼差しにドッキドキ。

 恋人と破局してから二年。あれから翔兄はどっしり腰を据え、この仕事に迷いなく、それまで以上に取り組んでいた。

 特に取れる資格を片っ端から受けて、スキルアップを目指している。車や整備だけではなく、経営に必要な資格まで。武ちゃんと相談して『今後の龍星轟のために』と邁進中。

 どれも一発合格なので、やはり国大卒の男はすごいと皆を驚かせている。こちらは武ちゃんが教育しているので、育て親専務としてもとても鼻が高いようだった。

 そんな彼だから、英児父からの信頼も厚い。なので英児父がとんでもないことを彼に言い放った。

「翔。お前、今日はもう仕事はいいから、小鳥と一緒に高松まで行ってこい」

 小鳥は彼と一緒に『はあ?』と目を点にした。直ぐに翔が苦笑いを浮かべる。



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