ワイルドで行こう

 .HAPPY×2トス(2)




 招待客が帰ってしまったレストラン。スタッフが料理の皿を片づけ始める中、滝田夫妻も帰る準備をしている。

「紗英ちゃん」

 武智さんと司会の後片づけをしていると、琴子さんがそこにいる。そして琴子さんの隣にはやっぱり滝田社長。

「今日は有り難う、紗英ちゃん」
「武智も有り難うな。いつもの悪ふざけだったけどよ、やっぱ嬉しかった」

 お二人の満面の笑みに、紗英も武智さんと一緒に微笑んだ。
 すると琴子さんが紗英の目の前に、真っ白な花束を急に差し出した。

「これ、紗英ちゃんに」
「え……私に」
「うん。このブーケ、私がウェディングドレスを着た時に持っていたものと同じブーケなの。この日のためにひとつ多く注文しておいたのよ」

 え、それって……。紗英は目を丸くする。同じものを、別の日に、前もって用意してくれていた……って……。

「ブーケトス、ううん、ハッピートス。紗英ちゃんだけに渡したかったから。受け取って」
「琴子先輩……」

 いつもの優しい笑顔。紗英のためだけにとっておいてくれたもう一つのブーケ。勿論、嬉しくて紗英は先輩の手からそっと真っ白なまんまるブーケと受け取った。

 でも、その手を今度は琴子先輩からぎゅっと握り返される。

「紗英ちゃん。お互いひとりっ子。これからも、私の頼れる妹でいてくれる?」

 もう嬉しい言葉に、紗英はこっくり頷くだけ……。そんな琴子さんから、やっぱり優しい匂い。

「琴子さん!」

 ついに感極まって、彼女に抱きついてしまった紗英。

 うわーん。やっぱりいい匂い。あったかくて優しいんだもん。いつも心地良い。

 紗英も一緒、泣けるところって少ない。琴子さんはそんな人。だから琴子さんにも泣きついて欲しかったな。そう思っている。

 それでも琴子さんはいつも『紗英ちゃんには話しやすい』と言って、誰よりも先になんでも報告してくれるから。大晦日の入籍だって直ぐに知らせてくれて。

 紗英ちゃんは頼れるっていうけれど。琴子さんは全然気がついていない。ずっと前から、さりげなく誰からも頼られていることを。だからこれからはもっと、頼れる妹になりたい。

 そんな琴子さんにぎゅうぎゅう抱きついていたら、滝田社長と武智さんが笑う声。

「ひとりっ子同士の姉妹か。安心だね。タキさん」
「そうだな。紗英さん。これからも遠慮なく、龍星轟に遊びに来てくれたらいいよ」

 元ヤン兄貴のふたりの温かい笑みも、今日はなんだかとっても心地よい。





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