給湯室の恋の罠
「紗和ちゃん。課長がコーヒー飲みたいって言っていたから、持って行ってくれないかな?」


そんな紗和に気付いてか、福本さんは優しくそう言った。


「えっ?あっ、はい……」


紗和は私を心配そうに見ながら答える。


「紗和、大丈夫。先に戻っていいよ」


紗和を安心させるように笑顔で言う。


「……うん。わかった」


紗和は課長の分のコーヒーを淹れ、給湯室を出て行く。


紗和が出て行ったのを確認した福本さんは


「さっきの答えね」


そう言って、給湯室内にある椅子に座り、テーブルに肘をつく。

そして


「俺が香澄ちゃんの事、好きだから」


私をじっと見つめながら言う。


……えっ?


いきなりの事に、私はびっくりして固まる。


「だから、香澄ちゃんの傷付く姿を見たくない」


福本さんに真剣な目で見つめられ、私は正直戸惑った。

いつも自分から気持ちを伝える私。

こうやってストレートに気持ちを伝えられたのは初めてだ。

だからなのか、私の心は少しドキドキしていた。

だけど、


「っていうか、なんで、私がフラれる事、前提なんですかっ!!」


初めての事でドキドキしていたけど、我に返った私。


そりゃぁ、倉木さんとは、挨拶程度にしか話した事がない。

それに、社員はたくさんいる。

倉木さんが私の事を覚えているかもわからない。

自分でも、“100%上手くいく”なんて思っているわけじゃないけど……


だけど、なんで福本さんに、そんな事言われなきゃいけないのっ!!


私はまたムカムカしてきた。


< 6 / 28 >

この作品をシェア

pagetop