愛を餌に罪は育つ
増田さんにそんな誤解をされているという事は、他にもそう思っている人がいるかもしれない。


加藤さんにも迷惑をかけてしまうだろうし、少し気をつけよう。


気をつけるも何も普通に話しているだけなんだけれど。



「あの、副社長」

『何だ』

「今日は残業せずに定時で失礼しても宜しいでしょうか」

『基本的に残業はする必要はないといつも言っているだろう。良い機会だ、他部署の人とも親しくなれば仕事もしやすくなるだろうし、楽しんできなさい』

「ありがとうございます」



残業していると副社長はいつも早く帰りなさいと言ってくれる。


そんなに長い時間残業することは滅多にないけれど、いつも残業してしまうのは副社長が奥の部屋で仕事をしていたり、会議に出ていたりするから。


入社したての頃は先に帰る事が気まずくて残業していたけど、今は少し違うかもしれない。


副社長と増田さんが秘書室から出て行くのを見送り、私はまた仕事をする準備を始めた。


最初はどうして秘書なんて仕事に就いてしまったんだろうと思っていたけど、今は毎日が楽しくてしょうがない。


仕事は楽しいし友達も出来たし、何より――いや、考えるのは止めておこう。


今の楽しい生活のままでいたいから――――。






< 86 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop