10年越しの恋
どこにお参りをすればいいか戸惑う私たちに一人のお坊さんらしき人が話しかけてくれる。


「どうかなさいましたか？」


少しのためらいも見せずに雅紀が言葉にした。


「昨日俺達の子供がこの世を去りました。だからその供養をしたいのですが」


状況を察したかのように優しく教えてくれた。


「あの本堂の向こうに扉があるのが見えますか？　あの扉を抜けた先にたくさんの子供たちが眠っていますよ」


「ありがとうございます」


頭を下げて教えられた場所へと向かうと、開いた扉の先はうっそうとした緑が広がり、道を示すかのように両側にはたくさんのお地蔵様があった。

お堂までの道のりは街灯も少なく寂しい感じがしてその薄暗さに恐怖すら感じたが、5分程の坂を登り切ったとたん視野が開けて私が住む街の明かりがきらきらと輝くのが見えた。


「ここならいつも瀬名の姿が見えて華ちゃんも寂しくないよ」


雅紀のそんな言葉に頷き、小さなテディーベアーを取り出した。


「あの子の骨の変わり。なんにも残ってないから」


それぞれの気持ちが込められたたくさんのお供え物の棚にそっと置いて手を合わせた。


「華ちゃん、痛い思いをさせてごめんなさい。ちゃんと生んであげることができなかった私を許して」


全くの静寂の中で目を閉じていると目の前に鮮明な赤がよみがえる。

その痛みから目を逸らさないように祈り続けた。


「もし許してくれる日が来たら、パパとママの所に帰って来てね」


目を開いた視線のその先に所在なくちょこんと座るテディーベアーはまるで私の存在そのものみたいだった。
< 194 / 327 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop