10年越しの恋
年が明けると私は3か月あまり引きこもっていた気持ちのリハビリの為に教習所へと通い始めた。

家から15分程の距離を自転車で通う。

最初の1週間は帽子を目深に被り人目を避けるように通った道のりも仮免許を手にする頃にはうつむかずに前を向いて進めるようになった。

卒検を間近に控え、1日でも早く免許を手にしたかった私は朝の教習を終えてキャンセル待ちをしていた。


♪ぷるるる♪

手にした携帯には”雅紀”の文字。


「もしもし」


「何してる?」


「キャンセル待ちしてるの」


「じゃあ瀬名の下手くそな運転でも見に行くかな」




次の課題は一人でコース内を走行すること。

緊張で手に汗を握りながらハンドルを操作した。

信号待ちでふと建物を見上げると雅紀の姿が見える。


”よし! いいとこ見せなきゃ”


張り切って苦手なS字とクランクあと縦列駐車をこなした。

教官から合格のはんこをもらい待合室へと戻ると、


「瀬名! こっち」


呼びかける雅紀がいた。


「今日も無事合格。まだ1回も落ちてないんだよ」


自慢げに評価表を見せる私の頭を小突いた。


「オートマ限定なんだから当たり前だっつうの」


「なんでよー。鈍くて有名な私だよ!」


「そんなの自慢になんないだろ」


あきれるように、でも暖かい笑顔で手を握る。


「ほら夕飯食べに行くぞ」


戻ってきた穏やかな日常にうれしくなって小走りで後ろをついていった。
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