10年越しの恋

気持ちの行方

1日が日曜日だった今年の新年度初日は4月2日。

きちんと新卒の新入社員で働き始めたはずの雅紀なのに一般的な企業で行われる入社式もなく、研修所もなくってただその日から父親と二人で車に乗って代々堀江家男子が通うその場所に向かうことになった。

平成大不況の煽りを受けどれだけ歴史があろうが無かろうが中小企業以下の規模で事業を行っている会社は従業員も少なくて閑散としていた。

雅紀と二人して大きな地球にある小さな日本で、毎日たくさんの人が呑み込まれていく大きなビルではない、きっとグーグルの衛星写真には写らないだろうぐらいに小さな世界の住人になった。

だから私達の毎日はとても狭いところにあって、決まった友達、いつものお店。そんな感じ。

でもそんなでも私たちは幸せだったよ。

二人とも花粉症なのにこの年もきちんとお花見に行った。

渋滞してて人がいっぱいなのを承知の上でゴールデンウイークも水族館に出かけた。

そしてこの年出会ったのがサーフィン。

ずっとやってみたいねって言ってたら7月の第一週の土曜日。海を見ようって出掛けたあの日の海岸で衝撃的に出会ったんだよね。

金曜の夜、いつものように会社帰りに待ち合わせてご飯を食べてたら雅紀が急に海が見たいって。

何故かこの夜はファミレスで、お酒も飲んでなかったからそのまま車を走らせたんだ。

ビーチサンダルも日焼け止めも持たないまま、そのまま日常の仕事をする姿だったからユニクロで適当にカジュアルな装いに着替えて、コンビニで必需品を調達して夜が明ける頃にはそれなりに海を目指してきた人になっていた。

何度も訪れたこの場所。防風林を抜けて砂地の小道を進んで、そして公営の適当に整備されたゴルフ場のコースを横断してたどり着く海岸。

今日も日が昇り始めるかどうかの薄暗い中で防波堤に並んで腰を下ろし、おにぎりを片手に空をオレンジに染め始める太陽とテトラポット少し向こうで波待ちをするサーファーの後姿を眺めた。

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