Loving Expression ~愛を詩にのせて送ろう~


「お前………なんでそんなに強かったのに、俺が殴った時やりかえさなかったんだよ………」


沈黙に耐えきれず、夏目は息切れ切れで言葉を発した。


彼は何も言わず、ヘッドフォンをかけなおした。


「おいなんか言えって………」


「殴り返す意味がなかったから」


淡々と彼は答えた。


「君が彼女を想う気持ちは僕を殴るのに値する。生半可な思いで彼女に惚れた僕を殴る権利は君にはあった。そんな君を殴る権利はあの男にはなかった」


それだけだ、と大粒の眼を一切そむけずに言い切った。


詩的表現が上手い男だな、と夏目は感心した。


「………作詞家ってのは腕力がつく仕事なのか?そんな風には思えなかったぜ」


皮肉交じりにそう吐きだした。


< 230 / 275 >

この作品をシェア

pagetop