ブラッディマリー
 


「何ということはない。我々は、人間とは違うのだから。それに百合亜は、とにかく美しかった。母だと感じさせないほどに」



 和の表情を見た澄人は、そんな反応は慣れている、とでも言うように苦笑した。が、澄人はその冷たい表情をわずかに曇らせる。



「しかし、純血のヴァンパイアというものは、人間と寿命が同じである中途半端な我々よりもずっと自由で、奔放だ。特定の誰かの──私のものになるなど、あり得なかった」


「お前のその個人的な感情は、黒澤とは関係ないだろうが」


「それは、君の見解だ。私の想いではない」



 澄人の言動に見え隠れする、どす黒い狂気。底知れない恐怖が、そこにあった。


 少しの沈黙の後、澄人はくつくつと笑い出す。

.
< 244 / 381 >

この作品をシェア

pagetop