ブラッディマリー
 

 目の前にいる女はその中の本気の1人だということに気付いて、和は自分の馬鹿さ加減に吐き気がした。


 そんな気持ちすら読み取ったように、女は棒立ちになった和の胸に顔を寄せる。



「私、ただもう一度和さんに会いたくて」


「……やめておいた方がいい。その方があんたの為だ」



 女はクスリと笑った。



「忘れていたこと、少しは悪いと思ってます?」


「当たり前だ。どうして名前くらい出てこないんだって、この頭を殴りつけて粉々にしたい気分」



「だったら、もう一度私を好きに扱って下さいませんか? はしたないって判ってたけど、何年も黒澤のおじさまに何度もお願いしてしまったんです。私、とても恥ずかしい思いをして、ここまで来たんですよ。だから……」



 人に言うことを聞かせるときの言い方だろう、それは。



 大事にされてきた人間特有の妙なしたたかさに、和は苦笑する。

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