ブラッディマリー
 


「は、はあ、はあ、はあ……っ」



 土砂降りの雨の中、万里亜はヒールでよろよろと夜道を駆けていた。泥まみれの足元、もう靴など意味がない。


 また冷えていく身体を気にすることなく、万里亜は息を切らしながら電柱にもたれ、ヒールを脱ぐと溝に投げ捨てた。


 横を通り過ぎて行った車のヘッドライトで、自分の肘に残った赤い痕が見えた。脂の混じった血は、打ちつける雨のこの勢いだけでは消えなかったのか。


 万里亜はそれを雨水で何度も洗い流した。何度か擦ると、ようやく血は流れ落ちる。



 欲とは違う衝動に万里亜は耐えきれず、快楽の為の吸血を、命を奪う為の吸血に切り替えた。澄人の首筋に深く深く牙を突き立てて、食い破りかねない勢いで。


 けれど途中で暴れ出した澄人に投げ飛ばされ、殺すことは叶わなかった。


 澄人の首から溢れる血に染まりながら、万里亜は自分の行動に説明がつかなかった。

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