ブラッディマリー
 


「……な、ぎ……」



 和の腕に縋るように、万里亜は泣きながら振り返った。


 そのびしょ濡れのワンピースが赤黒く汚れているのを見て、和は一瞬眉根を寄せる。



「どうした、これ」


「判らない……気が付いたら、死んでる男の人、引きずってて……」



 どこか虚ろな瞳の万里亜を見つめ、和は目を細めた。その眉が、迷っている。





「和……ごめんなさい、あたしを殺して」





 言ったそばから、その言葉をすくい取るように和は万里亜の濡れた髪をひと房引っつかみ、その頭を引き寄せると、食らいつくようにキスをした。



 ──馬鹿言ってるんじゃない。



 声になど出していないというのに、和がそう言って怒ったのが万里亜にも判った。


 男と睦み合うことなどもううんざりだった身体の芯に、ふと火が点る。



 ああ、とっくにあたしは、何もかもこの男にだけ、感じていたんだ。



 許さなくていいから、後であたしなんて殺してしまって構わないから、今はもっと強く抱いてて──。



 腰を強く抱き寄せられ、眩暈がするのを感じながら、万里亜はあふれる涙を止めようともせず、目を閉じた。









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