戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


おそらく彼女の実年齢を聞かされても、まず誰も信じないだろう。ずっと彼女と親交のある私ですら、お世辞抜きで思うのだから。


とにかくおばさまは、明るく友好的でサッパリした性格の持ち主だ。小さな頃はずっとソフィアさんに、自分の本当のママになって欲しいと願ったものだ。



夜でも変わらずパワフルな彼女に連れられ入室したのはこのお家で、家族の団欒スペースとなる懐かしきリビングだった。


配置や飾り物は当たり前に変化していても、シンプルなイギリス製のブラックレザーのソファで、読書をする人の姿に顔が綻んだ。



今日もまた理解不能な本に熱中する人の元へ静かに近づくと、隣のスペースへギシッとわざと音を立てて座ってしまう。


「琉お兄ちゃん、久しぶり!」

「おっ、トキちゃんかぁ、お帰りー」


ニッコリ笑っての呼び掛けで、ようやく意識を此方へ傾けてくれた彼。その瞳はやはり、ソフィアおばさまと同じ綺麗なダークグレイ色。



「琉お兄ちゃん、相変わらず勉強好きだね」

「ハハ、好きっていうか職業病だよ」

くすくす笑いながらメガネを取ったカッコイイ彼こそ、おばさまの息子である琉平(リュウヘイ)さんだ。



ここ名古屋では、ピカイチの技術と最新鋭の治療法を取り入れていることで知られる、“黒岩歯科医院”の跡取りさんな彼。


はるか昔コッチへやって来て間もない頃、馴染めるか不安だった中とても温かく受け入れてくれた人のひとりでもある。


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