戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


それは間違いなく彼が名古屋を避けていたし、私もそれを分かっていて遠慮していたせいであると思う。



あれは私立進学校に通っていた高校時代。
当時の修お兄ちゃんの親友が、自ら命を絶ったことが大きな理由だと思う。


私は当時小学生だったけど、その時のことは今でもうっすら覚えている。


親友さんが天国へ旅立ったと同時――修お兄ちゃんはすでに固めていた県内の進学先から突如、国内最難関のT大へ方向転換した。


合格は大丈夫かという周囲の心配をよそにあっさりと合格し、そして最後は首席で卒業したとも聞いている。


ただT大合格当時、凄いとか流石と大きく沸いていたのは周りだけで。
その時の本人といえば、すでに誰も寄せつけないオーラを纏い始めていた気がする。


周りの賞賛の中で修お兄ちゃんの顔つきは、親友さんを亡くす前の穏やかな表情を明らかに失っていたから。

優しかったダークグレイの眼に、かつての活きた様子や精気はなく。その鎧にも似た苦しみの色は、そこはかとなく昔と自身と重ねて見えた。


私が東京から逃げていたように、彼もまた名古屋を避けたいことが伝わるほどに…。


だから、たとえ少しばかりでも昔の彼とゆかりのある私は、彼の想像を絶する多忙さも重なって会う機会を失っていたのだ。


こうして今は年賀ハガキを出す程度の間柄となり、現在どうしているか気にしてはいるのだけども…。



「最近は私もバタバタしてて、連絡取れなくて…」


「そっかー。それなら、怜ちゃん知ってる?――兄貴が結婚したこと」

「えええ、知らない!結婚するの!?」


何となく気まずさを含んだ物言いなところへの投げかけに、人様のお宅にも拘らず声を上げてしまう。


< 111 / 400 >

この作品をシェア

pagetop