戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


はじめから分かっていた筈なのに、ハッキリ面と向かって言われれば強がりさえ紡ぎ出せなくなる。


次を放たれることに慄いて、俯き加減で彼が横切るのをひたすら待った。


その間にも残念なことに、ツンと目の奥に痛みを感じはじめて、無用な涙を零しかけていた私。


ああダメだ、泣きたくなんてないのに…。

無言を貫くと決めたところで再び静まり返った空間は不思議と、昔の自分を弱さを呼び寄せるから。


さ迷いながら彼のシャツ付近へ焦点を合わせ、道中で決めて来た通り“無になろう”と決め込んだ。


まさにその刹那、数歩ほどの距離がグッと縮まった。

自身の状況変化に気づいた時には、もうロボット男の逞しい腕の中へと収まっていた。



「これほど手を煩わせる方に出会ったのは、人生で初ですよ」

「…た、かしな、せん」


「まだ言いますか?」

初めてふわりと鼻腔をついた、ユニセックスで複雑な香り。


それがなぜだか懐かしく感じさせ、どうしようもなく心はドキドキと鼓動が脈を打った。



もう一度、いや何度でも。この場で“高階専務”と言いきらなければならないというのに。すべてが相俟って、ぐっと言葉を詰まらせる。


< 122 / 400 >

この作品をシェア

pagetop