戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


翌日に彼と貸主の担当者とで行われたのが、署名と押印という保証人の為の取り交わし。


小さな文字が羅列した債務についての注意事項や文面も、適当に受け流したうえナナメ読みだけに終えていた。


たとえば携帯電話とかの契約で、説明もソコソコに同意してしまうのと同じだと思う。


彼をとにかく信頼してた無知すぎる私は、そんな難しいモノの意味が分かる筈も無かったのだ。


そもそも社会人はおろか年端もいかない女が、起業に関しての知識や連帯保証人についての云々を知る訳ない。


ましてずっと先を見越した状態で、その直ぐあとでトラブルになるとは予知できずにいた…。



“ありがとう怜葉。これで大丈夫だ”

そう言って契約を終えてから笑った彼の笑顔の意味さえ、まったく読み取れなかったほど浮かれてた。



いよいよ私も結婚…なんて思い描いた未来が、すべてを包み込んでいたのだろうか?



「でも…あの時、専務に助けて貰えて良かったと思う。今ココに居られないしね?
どのみち男運ゼロだし、諦めも肝心!“コレ”が意味の無いモノで良かった」

少し前の自分を懐古しながら薬指のリングを眺めると、乾いた笑いしか出なくなる。


「怜葉らしくないよ」

以前のパワフルさからトーンダウンした私に、やっぱり口を尖らせている由梨。


「そう?でも…もう、男はいいよ。…色々疲れちゃった。
まだこの場所に留まる事が出来たんだから、ソレだけは凄く感謝してるよ」

ソレには気づかないフリをして、ケーキを追加オーダーしようと店員さんを呼び止めた。


心配してくれる彼女には悪いけど、あのロボット男なんか好きになりたくない…いや、ならないが。


始めから愛ゼロという、ノン・シュガーの関係は、もう疲れきった私の心にはピッタリだ…。



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